晴れ
7時前には目が覚める。マンハッタンのホテルの4階の 部屋にいると、窓の外を眺めてもその日の天気がわからな い。テレビをつけると、どうやらいい天気らしい。良かった。 ホテルの近所、フラットアイアンビルの界隈を散歩して、 朝食は中華街まで出かけた。洋食には流石に飽きた。地下 鉄をカナルストリートで降りて階段を上ると懐かしい匂い がした。見慣れた顔立ちの人が多くいると、何だか安心す る。アジア的な雑然とした通りの様子にも何だかほっとさ せられる。特に必要もなかったが、人だかりがしていた屋 台で1本3ドルのベルトを買った。適当な店に入って魚団 子の入った麺を注文する。一杯2ドルちょっと。だしのき いたスープが美味しい。このだしの感覚というのは、アメ リカの料理からほとんど感じることがない。食後、隣のリ トルイタリーでエスプレッソでもと思ったが、やめて近く のスターバックスに入った。10年前、はじめてニューヨ ークに来た時の、あまりよくない印象を思い出したので。 コーヒーもピザも美味しくなかったし、何となく歓迎され ていない気がしたのだ。リトルイタリーは中華街に比べる とどこか寂れていく一方にも見える。中華街は来るたびに 人も増えて、町も大きくなっているように思うのだが。リ トルイタリーは、ツーリスト向けの小さな通りという印象。 熱すぎる本日のコーヒーを時間をかけてすすりながら、 今日の予定を考える。15時にはポートオーソリティーか ら、ジャイアンツスタジアム行きのバスに乗らないといけ ない。それまでの時間をどうつぶそうか…。 一度ホテルに戻ってグラウンド・ゼロに行った。金網ご しに中をのぞく。星条旗と巨大な鉄骨で作られた十字架が なければ、巨大な工事現場にしか見えない。深く掘り下げ られたところには、多くの重機が入って沢山の人が忙しく 動き回っている。2年前の9月11日、テレビを通して見 た風景はそこにはない。残骸はきれいに片付けられていて、通りには、あの日の写真集を売り歩く女やピーナッツ売り の男、そして数えきれないほどの観光客。階段を上って展 望フロアに行くと、矢印の先には「Restaurants」、「Shops」というサイン。すっかり新しい観光地/戦跡地 という様相だ。あの日、数々のメディアが伝えた呆然とす るような映像と、目の前の光景がなかなか結びつかない。 きっと多くの人は、あの日のことを、さまざまな形で引 きずりながら、悲しさ、辛さ、苦さ、色んな感情を懐にし まって、前に向かって歩き出しているんだろうな。「マイ ・シティ・オブ・ルインズ(廃虚になった僕の町)」とい う歌を想い出す。これはすっかり寂れてしまったアズベリ ーパークのことを歌った曲なんだけど。
午後3時過ぎ。ポート・オーソリティーバスターミナル から、ジャイアンツスタジアム行きのバスに乗る。リンカ ーントンネルを通って15分ほど。トンネルを出て窓の外 にマンハッタンの風景が広がると、バスの乗客は一斉にそ ちらに目をやった。マンハッタンのスカイラインはニュー ヨーカーにとっても、目を奪われる光景のようだ。 バスループに着くなり、アリーナの入口のあるゲートC を目指す。僕が持っているチケットは、アリーナ最前列に あるスタンディングエリア。通称G.A。(General Admissionの略)ここには座席がなく、約400人がこの スペースに入ることができる。インターネットを通じて、 チケットブローカーという合法ダフ屋で手に入れた。この ゲートCでは、チケットを見せるとナンバリングされたプ ラスチック製のリストバンドをくれる。僕の番号は308 番。すでに300人以上が来ているというわけだ。で、実 際の入場順は、午後4時半の時点で配り終えた番号までを 抽選して決められる。リストバンドが400番まで配付さ れて150番が引かれたらそこから400番までが順に入 場して、その後に1番から149番が入場するというシス テム。誰にでも平等に最前列に行ける可能性があるという、 実にアメリカ的なシステム。で、この抽選の一連の作業を イベンターがオーガナイズしているのではなく、ファンの 有志がやっているというのにも驚かされる。 スタジアムのすぐ横では、ボードウォークフェスティバ ルというイベントが行なわれていた。これはスタジアムの そばに海辺のアミューズメントを再現しようというイベン ト。出店が並んだり、舞台でバンド演奏があったり、アス ファルトの上に砂を入れてビーチバレーをやってたり、ス プリングスティーンのカラオケコンテストがあったり、盛 り沢山。出店の中には、アズベリーパークをプロモーショ ンするものもあった。 さて午後4時30分。ゲートCに戻ると、ホワイトボー ドに当選番号が書かれていた。今日の当たりはナント29 8番。僕の前にはたったの10人しかいない。あまりの幸 運に思わず目を疑ってしまった。でも、それは紛れもない 事実で、整列が始まると、僕の前にはきっちり10人しか いなかった。このゲートの周辺では、GAエリアのチケット を求める何人もの人が「NEED 1 G.A」なんて書いた紙を手 に歩き回っている。ヨーロッパから来ている人もいるみたい。 午後6時開場。ゲートまで係員が歩いて誘導するものだ と思っていたが、チケットを切るやいなや、みんな一気に 走り出した。思わずその背中を追って走り出す。スタジア ムの入口はステージのちょうど反対側にあった。いたると ころでチケットをチェックされる。1度や2度ではない。フィールドに入る。走る速度を緩めて、まわりを眺めてみ る。7万人収容のフットボール場だけにさすがに広い。何 か気分いい〜。アリーナ最前列、GAエリアに着いた時には、 開場前からいたらしい何人かの客がすでに陣取っていた。 最前列もあいてはいたが、中央2列目スプリングスティー ンの真正面の場所に腰を降ろした。これだけ大きな会場で、 こんだけステージが目の前にあるのは、つま恋の吉田拓郎 (85年のオールナイト)以来だな。それにしても近い。 広くて高いステージだが、前に一段降りた一番近い場所な ら、コザのモッズの舞台とPA席くらいの距離。5m足らず ってとこ。 GAのエリアには少しずつ人が集まってくるが、スタンド 席はなかなか人が埋まらない。3日続けて通っているとい う横に座った日本人の男性は、スタートは8時半だったと 話していた。チケットでは7時半になっているのだが、こ の前の2日間は8時半に始まったそうだ。ポートオーソリ ティーからの最終バスが8時に出るから仕方ないと言って いたが、それにしても1時間押しとは…。 午後8時を回ると、場内もさすがにザワついてきた。散 発的に手拍子が起こったりする。ブーイングにしか聴こえ ない「Bruuuuce!」という叫び声。後ろの男に促されて仕 方なく立ち上がる、GAエリアはすでにいっぱいで総立ち の状態だ。スタンドを見上がると、最上段までギッシリと 埋まっている。 きっちり8時半、突然場内の照明が落ちて、左右のスクリーンに楽屋の通路からステージに向かうE Street Band の面々が映し出された。でも、あまりに舞台に近くて、そ の画面はほとんど見えない。スタンド席の後ろの方から津 波のような歓声が押し寄せて、メンバーが一人ずつ舞台に 上がってきた。最後にゆっくりと、あっけなく登場したス プリングスティーンは、笑顔で客席に手を振って、ギター を手にすると1曲目を静かにうたいはじめた。
Giants Stadium E. Rutherford, New Jersey 8/31/03 Night 10--Sunday
1) CYNTHIA 2) The Rising 3) Lonesome Day 4) NIGHT 5) LUCKY TOWN 6) Empty Sky 7) Waitin' on a Sunny Day 8) Spirit in the Night 9) BECAUSE THE NIGHT 10) Badlands 11) Two Hearts 12) No Surrender 13) Mary's Place 14) LOST IN THE FLOOD 15) Into the Fire 16) The Promised Land
Encore1-- 17. KITTY'S BACK 18. Glory Days 19. Born To Run Encore2-- 20. My City of Ruins 21. Land of Hope and Dreams 22. Rosalita 23. Dancing in the Dark Encore3-- 24. Jersey Girl
コンサートが終わったのは午後11時30分。きっちり 3時間。花火も放水も特殊効果も何もない、生身のロック だけを堪能させてくれるステージだった。 半ば放心状態でマンハッタンへ向かうバスへ乗る。午前 1時前に42丁目に着く。深夜にも関わらず明日がレイバ ーデイの祝日ということもあってか、タイムズスクエアは、 多くの人であふれていた。
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